現場のSE界隈では、いきなり新しく入ったエンジニアに「これが仕様書です」「じゃ、お願いします」と渡して即日プロジェクトに投入するような場面が珍しくありません。
まるで野球の助っ人外国人選手に練習もなしで先発を任せるようなものです。
なぜこのようなことが起こるのか、本稿では、背景にある構造、合理性、そして生じる課題について考察します。
データとしては、IT業界の平均プロジェクト期間や人材流動性に関する報告書をもとに実態を押さえながら、残りの部分では筆者の経験や周辺のエンジニアたちの声をもとに解説を行っていきます。
1.即戦力信仰と業界のスピード感
まず前提として、SE界隈では「即戦力であること」が非常に強く求められる文化があります。
特にSESや派遣といった形態では、契約初日からコードを書き始めることを期待されるケースも少なくありません。
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短期契約の多さ
IPAの調査によると、SEの契約期間のうち「3ヶ月以下」の割合は約26%とされており、これは多くの業界平均に比べても高い水準です。このような短期スパンでは、丁寧なOJTや長期的な育成はむしろ「コスト」とみなされがちです。 -
業務の属人化と時間のなさ
日本のSI型開発にありがちな属人化も、事情を複雑にしています。本来であれば口頭で伝えるべきナレッジや暗黙知を、時間がないために「ドキュメント化してるから読んでね」で済ませてしまう。結果として、資料はあるが状況が把握できないという「即席投入」が発生します。
2.資料だけ渡す文化の背景にある「共通語の錯覚」
資料を渡す側には、「これだけ読めばわかるだろう(わかってほしい、いやわかれ)」という思い込みがあります。
これは、文書を通じて知識を伝達するというモデルへの過剰な信頼に基づいています。
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専門用語や社内ルールの内在化
資料は往々にして「社内用語」や「略語」、「前提知識」を多く含みます。たとえば「週次MTGのログはKNOWに上がってます」といった一文も、外部者にとっては意味不明です。しかし書いた側はそれが当たり前だと思っており、特に説明しようとはしません。 -
助っ人を「即理解可能な人材」と見なす文化
SESや外注に対して「単価が高い=高スキル=説明不要」とする短絡的な思考も見られます。これも、資料さえあれば何とかなるという過信につながっています。現場では「この人は助っ人だから、現場にアジャストしてくれるだろう」といった期待が暗黙のうちに設定されているのです。
3.本当に必要なのは「翻訳者」あるいは「キャッチャー」
こうした状況を変えるためには、「資料の量」ではなく「意味の通訳」が必要です。
つまり、口頭でのフォローやコンテキスト共有が欠かせません。
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設計書の「前提」と「意図」を伝える存在
設計書には書いていない前提(なぜこの構成なのか、どうしてこの変数名なのか)を補足する存在がいるだけで、初動の失敗が格段に減ります。野球で言えば、ピッチャーのクセや状況を把握したキャッチャーが必要なのです。 -
社内通訳者の育成
中堅SEが「通訳」として間に立つようにすれば、助っ人起用はむしろ有効に働きます。短期間でプロジェクトに貢献してもらうには、仕様書だけではなく「職場文化」「操作慣習」「人間関係」といった空気感の共有が欠かせないのです。
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まとめ
SE界隈で「資料だけ渡して即先発」というスタイルが横行するのは、スピード重視の契約形態と、文書への過信、そして即戦力神話によるところが大きいことが分かりました。
しかしながら、それが実際に成果を生むかといえば、むしろ逆効果であることも多い。
これからの現場には、資料以上に「翻訳者」や「キャッチャー」が求められています。
助っ人外国人が本当の意味でチームの戦力になるには、そのチームのルールを伝える人間の存在が不可欠なのです。
SNOWさんが思うこと
そういう場面を見るたびに思うんだけど、一律にみんなどれかのパイセンにつけて作業の手伝いから始めればいいじゃんと。
でもそうではない場合が多くて、いきなり「はいあなたはログイン画面担当~」って、その会社のやり方とかもあるので、ベテランでも難しいと思います。
売上が上がればいいやって思っているのかもしれないですが、極端なたとえでいうと、10億円利益が出るところを500万円しか利益が出なかったら、それは立派な「大損失」だと思うのですが、いかがでしょうか。