芥川賞と直木賞の両方で「該当作なし」という決定が下されたのは、2025年上半期、まさに歴史的な瞬間だった。
文学界の最高峰とされるこの二大賞が、同時に受賞作なしとなるのは異例中の異例。
なぜそのような結論に至ったのか、背景にはどのような事情があったのか。
本記事では、選考基準、過去事例、他の賞との比較から、今回の事態を考察していく。
1.2025年上半期、両賞ともに該当作なしの決定
2025年7月、文藝春秋社が主催する第170回芥川賞および第173回直木賞において、どちらも「該当作なし」と発表された。
芥川賞の候補には、江國香織氏の作品や新人の意欲作などが名を連ねたが、最終的に選考委員会は「どの作品も基準に達しない」と判断。
直木賞においても、話題性やエンタメ性の高い候補作が並ぶ中、「文学としての深度に欠ける」という理由で、やはり受賞作は選ばれなかった。
両賞とも該当作なしとなったのは、1935年の創設以来わずか6回目であり、前回は1998年下半期だった。
27年半ぶりの「空位」となったことに、業界関係者や読者に大きな衝撃が走った。
特に、近年は「何かしら話題作に賞を与えて終わらせる」という傾向も指摘されていただけに、今回の潔い“該当作なし”の判断は、かえって賞の権威と信頼を取り戻す契機になるとの声もある。
出典:日テレNEWS
2.揺れ動く「選考基準」とその運用実態
芥川賞と直木賞には、それぞれ明確な評価軸がある。芥川賞は純文学、直木賞は大衆文学やエンターテインメント性の高い作品が対象となっている。
しかし、これらの「基準」は制度としては固定されているものの、実際の運用には年ごとの揺らぎが存在する。これは、選考委員の構成や文学界のトレンド、社会的なテーマへの関心度などが影響を与えるためだ。
今回の選考でも、「これまでなら受賞していてもおかしくない」レベルの作品があったとの見方もあるが、それらが“文学賞”としての本来の水準に届いているかどうかが厳しく問われた。
特に芥川賞では、表現の新しさや実験性が強調されることが多く、既存の文体やテーマでは評価されにくい傾向が続いている。
一方で直木賞では、物語の完成度や読後感が重視されるため、企画先行型の作品が候補になりやすいものの、今年は「読み応えのある長編小説としての説得力」に欠けるとの指摘が相次いだ。
つまり、「基準が毎年変わる」というわけではないが、「評価のライン」が揺れ動くのは事実であり、今回はその“審査の厳格化”が如実に表れたケースといえる。