2019-20シーズンのバイエルン・ミュンヘンは、まさに近代サッカー史に残る伝説的なチームでした。
ブンデスリーガ、DFBポカール、そしてチャンピオンズリーグの三冠を達成し、戦術・チームワーク・精神力のすべてで頂点に立ちました。
この記事では、その快進撃を支えた戦術ロジックや選手構成、さらには偶然と必然の境界までを分析します。
戦術好きの方にも、当時の熱狂をもう一度思い出していただけるような内容にしています。
時代の背景
このシーズンのバイエルンは、途中で監督交代を経験しました。
ニコ・コバチ監督の下で不安定なスタートを切ったものの、ハンジ・フリックが就任してからチームは劇的に変化します。
シーズン後半には、攻守両面で圧倒的な完成度を誇るチームへと進化し、最終的にヨーロッパを制覇しました。
コロナ禍による変則スケジュールや無観客試合といった特殊な環境の中でも、チームは一体感を高めていきました。
その背景には「支配と圧力の両立」「トランジションの高速化」「役割の流動性」といった、現代的かつ理詰めの戦術思想がありました。
選手構成と出場したメンバー
2019-20シーズンのバイエルンは、ヨーロッパでも屈指の選手層を誇りました。
主なメンバーは以下の通りです。
- GK:マヌエル・ノイアー
- DF:ジェローム・ボアテング、ダヴィド・アラバ、ベンジャミン・パヴァール、アルフォンソ・デイヴィス、ニクラス・ズーレ、リュカ・エルナンデス
- MF:ジョシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカ、チアゴ・アルカンタラ、コランタン・トリッソ、ハビ・マルティネスなど
- FW:トーマス・ミュラー、セルジュ・ナブリ、キングスレイ・コマン、ロベルト・レヴァンドフスキ
ベテランと若手が絶妙なバランスで混在し、個々の能力だけでなくチーム戦術への理解度も非常に高い構成でした。
とくにデイヴィスやキミッヒなど、新世代のタレントが急成長し、戦術的な幅を広げました。
選手配置の意味と戦術
基本布陣は 4-2-3-1。
一見シンプルな形ですが、試合中には動的に変化し、4-3-3や3-4-3のような可変的な構造を取ることもありました。
フルバックの役割
左右のサイドバック(パヴァールとデイヴィス)は、守備よりも攻撃に関与する機会が多く、ハイラインから積極的に幅を取っていました。
デイヴィスは驚異的なスピードでサイドを制圧し、攻撃の起点となることもありました。
一方で、ボールを失った瞬間には即座にプレスバックし、相手のカウンターを防ぐ役割も担っていました。
ダブルボランチ
キミッヒとゴレツカ(あるいはチアゴ)は守備と攻撃の両面で中軸を形成。
一方がアンカー的に後方をカバーし、もう一方が前線に顔を出すことで攻撃の厚みを生み出していました。
このバランスが、チーム全体の安定感を支えていたといえます。
攻撃的ミッドフィルダー
ミュラーを中心とした中盤の高い位置は、攻撃の柔軟性を生み出すゾーンでした。
ミュラーは「スペースを読む名手」として相手DFのギャップに入り込み、得点機を演出。
ニャブリやコマンはドリブルでの仕掛けとカットインを織り交ぜ、サイドから攻撃を広げました。
1トップ
レヴァンドフスキはまさに完成されたストライカーでした。
得点だけでなくポストプレーや味方への落としも巧みで、攻撃全体のタメを作り出しました。
こうした選手配置によって、バイエルンは攻撃の幅と深さ、守備の安定性を高次元で両立していました。
局面ごとの戦術分析
ここからは、試合中の具体的な局面ごとに戦術を整理します。
自陣守備ブロック時
高めのライン設定でコンパクトに守り、相手に自由を与えない構えが特徴でした。
中盤からの圧力と連動したプレスで、相手の前進を封じます。
ただし、ハイラインゆえに裏へのスルーパスにはリスクもありました。
相手陣内でのプレス
相手のビルドアップを封じる高強度のプレッシングが象徴的でした。
特に前線3人が連動して相手DFに圧力をかけ、ボール奪取後の即攻撃につなげる形が多く見られました。
「奪ってから3秒以内にゴールへ向かう」という意識が徹底されていました。
後方からのビルドアップ
ショートパスを基本としつつ、相手を引き出してから縦やサイドに展開する構造でした。
キミッヒやチアゴの配球がリズムを作り、ビルドアップの軸となりました。
ただし、強度の高いプレスを受けるとミスにつながる場面もありました。
相手ゴール前の崩し方
サイドからのクロス、中央でのワンツー、ミュラーのポジショニングによるギャップ突きなど、崩し方のバリエーションは豊富でした。
速い攻撃だけでなく、相手を揺さぶってから狙う「緩急」も見事でした。
トランジション時の戦術分析
切り替えの速さは、2019-20バイエルン最大の特徴でした。
ネガティブトランジション
ボールを失った瞬間、チーム全体が即座に守備モードへ。
前線からのカウンタープレスで相手の反撃を未然に防ぎました。
ディフェンストランジション
守備時は素早くブロックを再形成し、中盤と最終ラインの間を締める意識を徹底。
選手同士の距離感が非常に良く、相手にスペースを与えませんでした。
ポジティブトランジション
ボールを奪った瞬間の切り替えが非常に速く、相手が整う前に攻め込む形が多く見られました。
ナブリやコマンのスピードがこの局面で最大限に活かされました。
オフェンストランジション
ボール保持時には、サイドと中央を使い分けながら攻撃を構築。
複数のパターンを持つことで、相手守備を混乱させる効果を生んでいました。
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