生命起源の謎のひとつに、生命またはその材料が地球外から運ばれてきたという仮説があります。
本記事では、Svante Arrhenius から Fred Hoyle まで続く「パンスペルミア説」の流れを整理しながら、科学的な検証状況をわかりやすくまとめます。
特に、宇宙における有機物の存在や微生物の生存可能性、天体による移送のモデルなど、近年のデータを踏まえて解説します。
私自身の所感も交えつつ、生命がどこで“最初の一歩”を踏み出したのかを俯瞰していきます。
Contents
古代から近代への思想の流れ
古代ギリシャにおける種の散布の考え方
古代ギリシャの哲学者たちは、宇宙にさまざまな物質の“断片”が存在し、それが地上のものを形づくるという世界観を持っていました。
その中には「宇宙から何らかの種が撒かれる」という発想があり、生命が外部からもたらされた可能性を含んでいました。
まだ科学としての裏付けはありませんでしたが、この時代に生命起源を宇宙と結びつける視点が芽生えています。
19世紀末〜20世紀初頭:科学としての提案
19世紀末から20世紀初頭にかけて、天文学や物理化学の発展とともに、生命の“宇宙由来”という考えが科学的な議論の対象になりました。
この流れの中で、Svante Arrhenius が「放射圧」によって微生物の胞子が宇宙を移動し得るという放射パンスペルミア説を提唱しました。
太陽光が微小な粒子に推進力を与えるという考えで、地球に生命が降り注いだ可能性に言及しています。
ホイル/ウィクラマシンゲの時代
ホイルとウィクラマシンゲの彗星パンスペルミア
1960〜70年代になると、天文学者の Fred Hoyle と数学者の Chandra Wickramasinghe が、彗星や星間塵の研究をもとに、生命の材料が宇宙から絶えず地球へ降り注いでいる可能性を示しました。
彗星に含まれる有機物が生命の起源に関わったという考え方で、この時期にパンスペルミア説は一気に広がりました。
特に有機分子の観測が増えたことで、宇宙が生命材料を豊富に含む場であるという認識が強まりました。
主な批判と疑問点
- 微生物が真空や放射線、極低温など宇宙空間の過酷な環境に長期間耐えられるのか
- 隕石や彗星が地球大気に突入する際の熱や衝撃に耐えられるのか
- 「生命そのものが宇宙から来た」と仮定しても、生命起源の根本的な謎は解決しないという指摘
こうした批判が続き、学界では主流説とは位置付けられていませんでした。
しかし、観測データの積み重ねにより「完全否定はできない」という立場が徐々に強まっていきます。
出典:Naked Science