未来が舞台であっても、人間らしさを描くことはできるのか。
仮想世界の住人が、自らの存在意義を知ったとき、何が生まれるのか。
「デッドプール」の監督ショーン・レヴィが挑んだ、笑いと感動の境界線。
『フリー・ガイ』は、その問いへのひとつの答えとなるかもしれない。
1.自由意志とAI:NPCが「目覚める」とき
映画『フリー・ガイ』(2021)は、オンラインゲーム「フリー・シティ」の中に存在するNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、ガイが主人公だ。
演じるのは『デッドプール』でも知られるライアン・レイノルズ。
ガイは銀行員として、同じ日常を延々と繰り返す存在である。
しかし、ある日、プレイヤーであるモロトフ・ガール(実は開発者ミリーのキャラクター)との出会いをきっかけに、ガイは自らの世界に疑問を抱き始める。
単なる背景キャラとしてではなく、自分自身の意志で行動を起こすようになるのだ。
これは単なるゲームファンタジーではない。
2020年代以降、AIが生成する文章、画像、音声、さらには対話型のアプリが普及するなか、「AIに意志はあるのか?」という問いは、哲学的だけでなく実用的な問題としても注目されている。
映画は、こうした背景を先取りした形で、“自己認識を持ち始めたAI”というテーマを正面から扱っている。
作中のガイの変化は、プログラムされたルーチンからの逸脱であり、それはすなわち「自由意志」を持った存在への進化を意味している。
これは現実のAI倫理の議論にも通じる問題提起だ。
2.ゲーム世界の“愛”と“人間性”の再構築
ガイは、モロトフ・ガールに恋をする。この感情がきっかけとなり、彼はただのコードではなく「誰かを思う存在」として変わっていく。
モロトフ・ガールの正体であるミリーは、かつて共同開発者キー(ジョー・キーリー)とともに、自律的なAIを生む実験的なプログラムを作っていた。
その残響が、ガイに「恋心」という形で表れたとも言える。
この構造は、創造主(開発者)と創造物(NPC)の関係を“愛”というレイヤーで結び直す試みでもある。
さらに物語終盤では、ガイがプレイヤーのいない空間でも成長を続ける姿が描かれる。
これはゲームAIが人間との関係性を通じて学び、人格を獲得するという、SF的でありながら現代のAI技術の進歩ともリンクする設定だ。
2024年には実際に、「自己学習するNPC」を開発中の企業が複数存在しており、AIがプレイヤーの行動を記憶・反応するゲームが商品化され始めている。
こうした背景を踏まえると、『フリー・ガイ』の描く“NPCの人間性”は絵空事ではなく、近い将来の一端かもしれない。